陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

榊英雄氏の報道について

 

週刊文春オンラインによって映画監督・榊英雄氏による「性行為の強要」が報道されました。被害に遭われ、長年苦しんでこられた被害者の方々に心からのお見舞いを申し上げます。加害者の近くにいながら犯罪的な行為を止めることが出来なかったことを深く陳謝いたします。

 

榊氏と自分は、俳優とカメラマンという関係性で20年以上前に知り合いました。監督とカメラマンという形でタッグを組むようになったのは2013年頃からです。以降ドラマ、Vシネ、ピンク映画を含めた商業映画、MV等多数担当させていただきました。撮影現場ではお互いを尊重し合い良い仕事が出来ていると思っておりました。

 

いつ頃からか「榊監督は女グセが悪い」などの噂が聴こえるようになりましたがあまり気にはとめませんでした。2016年11月、『生きる街』という映画を宮城・石巻市で撮影中に榊氏の名前は伏せられていましたが、オーディションと称したわいせつ行為を「週刊大衆」が報じました。反省したのか、以降われわれ周囲の関係者には「改心した。一切そのような行為はやっていない」と常々言ってました。発言を文面通り信じていたわけではありませんが、「信じよう」というバイアスがかかったことは否めません。

 

2021年2月から4月にかけて『ハザードランプ』と『蜜月』という2本の映画を立て続けに撮影することになりました。特に『蜜月』は、自分が最も敬愛する脚本家・港岳彦氏と10年ほど前から温めていた企画でした。6、7年前に榊監督の手に回り、以後榊氏が中心となり、この難しい企画の実現化を図ってくださりました。その点に関しては感謝しかありません。当たり前ではありますが、カメラマンとしてどの作品においても粉骨砕身業務に携わってきたという自負があります。

 

今年の2月21日、たまたま石川優実さんのブログを目にしました。タイトルは「日本の映画界には地位関係性を利用した性行為の要求が当たり前にあったな、という話」というもので、内容を読むとすぐに榊英雄氏に関することと分かりました。当該するピンク映画を撮影したのは自分であり、ブログの下の方に「カメラマン」としても出てきます。不眠不休、低ギャラと言う過酷な現場をこなせたのはひとえに監督、役者、そして作品のためと思ったからです。そんな現場の裏で、監督が女優に対し性的な要求を長期にわたって行っていたことにたいへん驚き、失望しました。またブログに張られていた過去の匿名ツイートに関して、それが榊氏の行ったことであるならば明らかな“犯罪行為”であり、許されるものではありません。「週刊大衆」の報道、石川さんのブログ内容、周囲から聞こえてくる噂などを統合すると、長期にわたり榊氏は常套的にこの手段を使って性的要求をしていたと判断しました。一連の榊氏による“悪の連鎖”の一部に作品の映像クオリティを担保する撮影者である自分も組み込まれていることに強い憤りを感じました。

 

石川さんのブログを「見て見ぬふり」することは自分も紛れもなく「加害の一部」になります。同じような被害者をもう出してはいけないと考えました。映画の公開も近づくなか、「映画カメラマン」としての自分よりも、「一人間」として苦渋の選択を行いました。ブログを拡散するということです。

 

ただし、一縷の望みを託して拡散する前に『蜜月』プロデューサー陣にブログのリンクを送りました。プロデューサーが石川さんにコンタクトを取り、善処してくれることを期待しました。ですが石川さんにも自分にも一切連絡はなく、プロデューサーが何事もなかったかのようにフェイスブックに餃子の写真を上げているのを見て心を決めました。

 

SNSには一切言葉を書かずリンクだけを貼りました。声高に拡散を望むのではなく自然の流れに任せてみようと思いました。未遂を含む被害の告発が想像以上に上がりました。中には実名で告発された方もおります。いまだ偏見が根強く残るこの社会で、声をあげる勇気は称賛に値します。同時に自分らは告発された方の二次被害を防ぐ責任があります。どうか個人名を探して晒すような行動は控えてくださいますようお願いいたします。

 

先週末、「週刊文春」の記者から取材申し込みの連絡があり受けることにしました。記事には「某スタッフ」ではなく、実名で書いてもらうことが自分なりの責任の取り方と考えました。

 

以上が大まかな経緯です。先ほど(3月9日23時半頃)榊氏から出されたコメントを読んで大きな違和感を覚えました。謝罪しているのは映画の関係者、家族の順で、最後に「事実の是非に関わらず渦中の人とされてしまった相手の方々」で、謝意も順に薄くなっています。当然ながら謝罪するのは第一に被害者であるべきです。また「過去のことをなかった事にはできません」とあります。過去を軽視しているような表現ですが、「性被害者」がどれくらい苦しみ悩むか全く想像ができていないように感じます。そもそも「性被害者」と認めていない点で「肝に銘じる」ことも「これからの先へ猛進」することも許されないと考えます。

 

繰り返しになりますが、被害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げるとともに、今後同様なケースが発生しないよう強く発言、行動していく所存です。

  

                            2022年3月10日 早坂 伸