陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

◾️『架空OL日記』の撮影について

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テレビ版に引き続き、『架空OL日記』(住田崇監督)映画版を手掛けさせてみらった。映画化の話はテレビ版撮影の頃からスタッフ間で囁かれてはいた。

ただ出演者は多忙な人ばかり。テレビで見ない日はない、脚本、主演のバカリズムさんのスケジュールを押さえること自体が困難だ。

リスケを何度か繰り返し、クランクイン出来たのは昨年5月。

撮影日数自体は2週間程度であったが、キャストのスケジュールを調整するために期間は2カ月近くを要した。

 

衣装合わせの前にキャストの顔合わせが行われた。

勝手知ったる者同士なのに、2年ちょいの時間がそれぞれの距離をつくり、皆たどたどしい。

キャラクター=(イコール)役者本人では当然ないため、再び演じるということがとても気恥ずかしいものらしい。

ちょっとした杞憂もあったが、撮影が始まればものの3分で見事にキャラクターに再没入していた。

 

更衣室セットはテレビ版のものをそのまま流用した。

広いステージ端にポツンと立つ更衣室セット。なんとも贅沢なスペースの使い方である。

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撮影スタイルは当然テレビ版を踏襲する。

言葉にすると、“誇張したアングルなどカメラで笑いをとらない” 。つまりは“観客にカメラの存在を意識させない”というところに尽きる。

ライティングも自然なコントラストを意識し、そこにビューティーを加えていく感じ。

カメラは常時2台なので、キーライトの角度や位置、強さには気をつかう。

テレビ版から変化したのはカメラがPXW F3からFS7mkⅡになり、4K撮りしたこと。

映画なので30Pから24Pに当然なる。

トーン(ルック)はテレビ版の“青”を踏襲しながらももっと立体的になる調整を加えた。フェイストーンと青の分離を図っている。

一番議論になったのはアスペクトレシオ(フレーム比)である。

今のDCI規格ではビスタサイズ(1:1.85)とシネスコ(1:2.39)しかない。

テレビの16:9とビスタサイズには大した印象の差はなく、シネスコではあまりにも仰々しい。

それで一部Netflix作品(例『ハウス・オブ・カード』)や劇場作品(例『グリーンカード』)で使用されている1:2のフレームを使用できないか提案した。

テレビ版のグループショットを抜き出して、各フレーム比を見比べてみた。

想像していた通り、1:2が一番グルーヴ感があり、住田監督はじめプロデューサー陣も納得してくれた。

ただDCP自体は1:1.85なので、レターボックスの状態で上映することになるがそこに気になる人はいないだろう。

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機材の変更については、テレビ版で使用していたステディカムを辞め、ジンバルのRONIN2を使用した。

ステディは十二分な訓練を必要とし、自分のような見様見真似のオペレーターでは御し切れない。

それに比べ、ジンバルは修練度を多く必要としないため(実際はそんなことないのだが)、扱いやすい。

テレビ版に比べ、練馬駅前の引っ張り撮影はスムーズに行えた。

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苦労話と言えば、設定が冬なのに撮影が夏ということ。

緑をグレーディングで枯葉の色に転がしている。

演者は着込むので相当暑かったに違いない。

撮影自体は本当に幸せだった。

こんなにスムーズで楽しい現場は数少ない。

テーマ曲も引き続き『月曜日戦争』を使用。映画になると変なタイアップ曲が流れて作品を破壊することもよくあるが、皆が慣れ親しんだ曲ほど満足感を与えるものはない。007にしても『ボーン』シリーズにしても『男はつらいよ』にしても。

自分としては“寅さん”のように毎年撮って公開してほしいくらいだ。

ただバカリズムさんの女装があと何年見るに耐えられるかは分からないが…。

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【おまけ】

請求の件でメールのやり取りしていたら、某プロデューサーから「架空請求の件で」というメールが。

会社の監査に引っかからないといいですね。