陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

◼️『約束のステージ 〜時をかけるふたりの歌〜』撮影について

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  佐々部清監督とはこれで通算5回目のコンビになる。撮影スタイルが予め分かっているということは不安要素が少ない。佐々部監督は予めカット割りを出しておく。このカット割りの精度が凄い。カメラ尻(通称ひき尻=カメラを置くスペース)やライト、美術チェンジまで考慮されている。さらにそのカット割りに引きずられ過ぎない。芝居を見て「違う」と思った瞬間、スパッと捨て去る。監督のキャリアもさる事ながら助監督時代の経験則が多分に生かされている。テイク数も最低限だ。佐々部組に初めて出る役者が「もう終わり?」と言いたげな表情をすることを度々目にする。深夜まで撮影が及ぶことはない。キャストもスタッフも余力を残して翌日に臨める素晴らしさは強調してし過ぎることはない。

  ただしその分、技術スタッフはもたもたしていられない。監督が本番行きたいと思った瞬間に行けるように努力する。何かしらの理由で待ちになった場合は、その理由を明確に伝えておく。当たり前と言えばその通りだが、現場の推進力を損なわないために声を出していくことは大切だと思う。

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  カメラは弊社のSONY FS7mkIIを2台とジンバル用にもう一台、計3台を用意した。いつものようにノーフィルター。レンズはContaxレンズを中心に、SIGMAのシネレンズ、Nikonのスチールレンズなどを使用した。ジンバルはDJI社のRONIN2。カラースペースはS-LOG3.Cine。グレーディングは東映デジタルセンターでFUJIのLUTをベースに調整した。舞台は現代の青森とタイムスリップした先の昭和50年の東京。現代の方は寒風吹き荒む感じを出したくてブルートーンで彩度を落としている。昭和50年のルックは監督から総天然色映画のようなものを求められた。クレイジーキャッツの映画などを参考にテスト時にLUTを作成した。が、DITなどは付かないため、現場ではRec.709のLUTを当てて判断した。グレーディングは1日でやる予定だったのであまり複雑な工程を踏みたくはなく、ワイプなども最小限にとどめた。フェイストーンを最優先に作業を行ったため、監督のイメージした原色バリバリのトーンよりはだいぶ落ち着いているかもしれない。

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  時代物なだけに美術部の労力が画にそのまま反映される。最大の問題は昭和50年の上野駅をどこで再現するかだった。撮影可能な石造りの建造物を探して制作部が駆け回り、群馬県庁の昭和庁舎内で撮影を行った。実際の上野駅のスケール感を出すことは出来ないが、ロケハン時にアングルを限定することで美術部にフレーム内を徹底的に飾ってもらった。当時は電光掲示板などなく札がぶら下がっていた風景を懐かしくカメラに収めた。

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  バーのセットは東映撮影所内に建てた。実際の物件よりやや広く作られていてその空間描写をどのように行うかが思案しどころだった。実際より広い空間でワイドレンズを使用するとさらに空間が広がってしまう。かと言って長玉を使用するとカメラの引きじりを画に感じてしまいセット感が出てしまう。なのでワイド端のレンズは28mmとし、それ以上のワイドレンズの使用を禁じ(但し2カットほど例外が出た)、セットの壁を下げてもらって実際に壁が存在しうる場所ギリギリでカメラを構えた。時には壁に穴を開けてもらってそこからレンズを突き出して撮影することもあった。

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  撮影自体は非常にスムーズに進捗した。トラブルらしいトラブルもなかったが、自分自身がインフルエンザに罹患し、現場を2日ほど休まなくてはならなかったことが心残りだ。常日頃体調管理をしっかり行うことが撮影の第一歩だと肝に銘じた。土屋太鳳さんはじめ百田夏菜子さん、向井理さん、矢田亜希子さん、升毅さん、石野真子さん、皆それぞれのキャラクターを咀嚼し見事に演じていたと思う。タイムスリップが絡むファンタジー要素のあるドラマだが、昭和歌謡を懐かしむもよし、アイドルドラマとして観るもよし。幅広い年代の方に観てもらえる作品に仕上がっていると思います。

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