陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

◾️『報復〜かえし〜』の撮影について

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  この作品の仮題は『罪の追憶』というものが付かれていた。どことなく韓国映画を彷彿とさせるタイトルである。劇場用作品ではあるがDVDパッケージ2本にするというのは前段階から決まっていたので、所謂“Vシネマ”の枠組みだ。1週間程度で3時間近い作品を撮影する、かつてよく手掛けた低予算体制、腕がなる思いだ。内容はしかもフィルムノワール風。同級生を殺めてしまい出所してきた青年と娘を殺された父親の対峙。田舎を舞台にし、そこの悪徳警官、ヤクザなどが絡んでくる。自分のイメージは完全に“雑貨店のドストエフスキー”ことジム・トンプソンの世界だった。自分指名というわけではなくウチの事務所へのオファーだったが、これは自分がやらなければならないジャンルの作品だと思い、自ら手を挙げた。

  膨大な分量の割に撮影照明予算はあまりない。しかもスチールも撮影しなくてはならない。そこで変則的な体制を考えた。カメラは低照度に強いSONY α7sIIをメインカメラに据え、サブカメラにRX10IIIというレンズ一体型デジタルスチルカメラ。要は2カメで撮影し、状況に応じてスチールに切り替えていこうという作戦である。メインカメラは自分が、サブカメラをウチの吉田淳志が担当し、助手はフォーカスの岡崎孝行1人。サブカメラのフォーカスは吉田が自分で行う。照明は大庭郭基氏1人のみ。これは基本的にアヴェイラブルでいきますよ、という意思表明である。照明部を組んでしまうとある程度キチンとしたライティングを組まなくてはならなくなり、スケジュール消化が厳しくなるのが予想された。LEDのライトパネルを複数台とHMI575を2台、これでほとんど全てである。混載し、ヨーイドンで撮影照明機材を下ろすというスタイル。撮影部、照明部の隔てをなくす自主映画的スタイルとも言える。この体制にした理由が実はもう一つある。撮影時期は極寒の1月。インフルエンザなどにカメラマンである自分が罹り外出不可になった場合、撮影が中断してしまう。カメラマンのバックアップということも考慮しなくてはならなかった。実際、ある日吐き気が収まらず、半日ほど現場を吉田に任せる場面があった。撮影のリスクヘッジという考え方も大切かもしれない。

  異なるカメラ2台というのは反省点もあった。クランクイン前にグレーディングテストなどを行い、2種類のカメラの親和性を確認はしていたのだが、極度に悪い条件では行っていなかった。暗部の階調や粒状性に大きな差が出てしまった。やはり同じカメラを2台用意すべきだったと大いに反省した。

  RONINも使っていたのだが、挙動がおかしくなり、重要なシーンで使用が出来なくなった。あとで購入先で調べたところ、初期化すれば治ることを知る。トラベルシューティングが出来ていなかったことが悔やまれる。助監督経験が豊富な山口監督は「モニターは必要ないです」というスタイルを採ってくれたからこそのこの体制であったが、モニターなしの弊害が一箇所出てしまった。センサーに付着したチリの写り込みに気づかなかったのである。これは編集時に初めて気づき暗澹としてしまった。グレーディング等で誤魔化しはしたが撮影部としてはかなり痛いミスケースとなった。確認に次ぐ確認を怠ってはいけない。

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  主演は佐野岳津田寛治(敬称略)。それに木下美咲、近藤芳正内田理央、戸塚純貴、小宮有紗榊英雄、森本のぶ、ラサール石井ガダルカナル・タカ。実に多彩でモザイク模様のキャスティング。矮小で利己的なキャラクターのアンサンブルだが、いずれも粒が立っているのは脚本がいいためか、演出が優れているのか、演者の技術の賜物か。主演の2人のキャラクターの陰鬱さの割に全体のトーンは決して暗くはない。極寒の中、薄着で通してくれた主演の2人には本当に感謝したい。撮影後、佐野岳さんに寒さを顔に出さないことを褒めたら、「めちゃくちゃ寒かったっすよ!」とのこと。メソッド的に役づくりをしていた。彼は運動神経の良さで知られるが、今回はそのようなシーンは全くない。新たな面を見てもらえたらと思う。津田さんも役に入りきってテストからいつも全力投球。相当肉体的精神的に負担を掛けたと思う。彼らの本気の芝居を堪能してもらえたらと思う。

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カメラ:SONY α7sII、RX10III

撮影:早坂伸、吉田淳志   撮影助手:岡崎孝行   照明:大庭郭基   グレーディング:山口武志(GLADSAD)