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陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

◼︎『ぼくのエリ 200歳の少女』('08) 撮影:ホイテ・ヴァン・ホイテマ

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 『インターステラー』や『her』『裏切りのサーカス』『007/スペクター』など、ハリウッド一流の撮影監督になったホイテ・ヴァン・ホイテマが注目されるに至ったスウェーデン作品。この作品の特徴は方向性のない光、シアンブルートーン、ローコントラスト、白の面積の多さ、フォーカス送りの多用、などが挙げられる。作品のテーマともなる、窓ガラス越しなどの“境界”を印象的に残している。
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  特に1枚目の冒頭とラストに出てくるカットは、外の景色に少年の姿が写ってくる。普通はそこで少年の虚像にフォーカスを送りたくなるのだが、そこは送らず、少年の手がフレームインしそこがフォーカスポイントだったことが分かる。そしてこの手のモチーフは繰り返されていく。
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  ストーリーの発端になる少女の“父”が殺人を犯すシーン。普通の映像感覚で言うと「あり得ない」ほど明るくフラットである。以前、作品をチラ見したとき、この箇所でかなりシラけて観るのを辞めたことがある。メイキングを見ると、蛍光灯で面光源を作り、それに大きなディフューザー枠で拡散し、それをハイライダーで吊り下ろしている。ホイテマによると、「これはホラー映画はなく、日常の光の中で非日常の出来事が起こる。だから闇は必要なかった」とのようなことを語っている。
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  少年と少女が交流する団地の中庭も街灯のキーライトに対し相当押さえている。対比は2:1もない。周り一面が雪ということもあるが“リアル”なバランスではない。でも“リアリティ”は喪っていないと思われる。もしくは北欧ならではの光の捉え方かもしれない。インタビューを読むと、ホイテマと監督は16世紀の宮廷画家ハンス・ホルバインの絵画をモチーフの基準にしたそうである。確かにレンブラントとかに比べるとはるかに柔らかい。長玉によるパースを嫌った垂直線、水平線はそのところに依るところが多いのだろう。『インターステラー』も同じようにローコントラストのシーンがあった。尚、少年の後ろの電灯のボケ方から、シネスコだがアナモレンズは使っていないことが分かる。調べてみるとスーパー35でZeissのスピードレンズだそうだ。しかもほとんどが開放(T1.3)で撮られたものらしい。
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  シネスコのアスペクトレシオを利用した大胆なコンポジションも見逃せない。2枚目のスプリットフィールドのイメージはゴードン・ウィリスが『マンハッタン』などで見せた構図を思い出させる。フジフィルムの持つグリーン味は特にヨーロッパの撮影監督たちに支持されてきた。この作品もフジのエテルナである。つくづく生産終了してしまったことが悔やまれる。スーパー35をDIで2Kスキャンし、最終的にアナモのポジを作っている。
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  上記の3ショットは同一カットである。ヘッドライトのみで黒みから人物のエッジが浮かび上がり、車が停車し、それに乗り込む。吐息がヘッドライトに照らされ、息づかいを感じさせる。シネマトグラフィとして本当に素晴らしい。
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  これも同一ショット。単に電灯が消されるだけだが、窓枠の桟のてかり方、抜けを走る電車など、魅せられる。
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  そしてこの作品が優れている点はゴア描写もしっかり観せていることだ。氷漬けの屍体をクレーンで釣り上げているのなんて初めて見た。この作品の成功は、ホイテマに負うところが多い。過剰な説明を排し、イメージで訴えてくる。映画撮影の基本概念である、何を見せ、何を見せないか。そしてそれをどう見せるか。観客はそれを受け入れるか、受け入れないか。奇しくもこの作品が訴求するテーマに隣接する。

↓Officials Trailer 

↓behind the scenes 

↓2008年のインタビュー記事(American Cinematographer )

↓撮影を分析したブログ