陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

20130820

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■もはや世界の巨匠監督になったアン・リーのデビュー作『推手』('91)をDVDで観る。急にアメリカで生活をすることになった老父、父を労わる台湾人の息子、狭い家の中で言葉も通じない義父と一日中生活しなくてはならなくなったアメリカ人妻、英語、中国語両方学ばせられているハーフの孫(アン・リー監督の実子が演じている)。家庭内カルチャーギャップがややコメディカルに描かれているが監督の主題はそこにあるのではなく、"自分の人生を受け入れる"という諦観にあるのだと思う。それは陳さんという台湾から渡って来た老女性が出てくることでより明確になる。老父は文化大革命で妻を殺され男手ひとつで息子を育て上げアメリカに渡らせた。陳さんは恐らく国民党について台湾に渡り二度夫との死別を経験し娘を頼ってアメリカに渡ってきたらしい。自分の"居場所"を探して遠い外国まで来たものの情けない思いを強いられ、ひたすら現実を受け入れようとする老人達。突きつけ過ぎず、寄りそい過ぎない視点はどこか小津映画を彷彿させる。