陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

◼️BRAHMAN『ナミノウタゲ』MV撮影について

f:id:shin1973:20180122105216p:imagehttps://www.youtube.com/watch?v=28WLJxDIb-I

 

   BRAHMANは「幡ヶ谷再生大学」の一員としてボランティア活動を一貫して行なっている。一過性ではないその徹底した姿には尊敬の念を禁じえない。石巻牡鹿半島の西側に位置する小渕浜も3.11による津波被害で壊滅的なダメージを受けた。BRAHMANはここ小渕浜でのボランティア活動をメインに行い、地元との親密な関係を築いている。震災後の荒涼とした廃墟の中で遊ぶ子供たちの姿を見て、安全に遊べる公園を造った。MV撮影当日もその公園の花壇に球根を植える作業を行っていた。この曲は映画『生きる街』(榊英雄監督、3/3公開)の主題歌となっている。映画のメイン舞台も牡鹿半島の鮎川港。復興ボランティアにも積極的な主演の夏木マリさんはTOSHI-LOWさんに直接電話をかけ主題歌を依頼したと聞いている。映画の撮影のことは別の項に譲るが、このMVも様々な善意のもとで作られた。曲は、BRAHMANたちと交流の深い小渕浜の漁師木村さんの想いが描かれている。津波により妻と長男を喪った木村さんはとある早朝、TOSHI-LOWさんに電話を掛けた。普段は健気な木村さんだが、夢に妻と息子が出て来て海から呼ばれたという。震災後初めて涙したと聞いた。『ナミノウタゲ』の歌詞にはその辺りのニュアンスが含まれている。

  MVの監督は『生きる街』同様、榊英雄さん。榊監督のイメージはワンカットでエキストラがワーっと入ってくるというものだった。監督はクレーンでの撮影を想定していたようだったが、カメラは最低でも180°は回らなくてはならず、クレーンワークでは補えない。それでドローン撮影を提案した。というのも、自分は元々ドローン撮影に半信半疑だったのだが、少し前に手掛けたNGT48『世界はどこまで青空なのか?』(https://m.youtube.com/watch?v=qGBvujY6bjg)MVのドローンオペレーター遠藤祐紀氏(ヘキサメディア)の腕前に感銘し、初めて全幅の信頼を置くことが出来たからだった。監督はドラマ撮影の為ロケハンには帯同できず、かなり責任を感じた。

  まずワンカット撮影と言えども、「展開」が無くてはならないと思った。TOSHI-LOWさんのフレームインで始まりしばらく引っ張り、他の3人と合流、間奏の間にエキストラ合流、大団円で最後は海に向かうーという大まかな構成をした。カメラのオペレート位置、エキストラの待機位置、ドローンの影など、いくつも懸案があってどれもキチンと想定してないと大火傷する可能性もある。具体的プラン練ってそれを監督や遠藤氏と共有し、BRAHMANサイドに説明する為に「SHOT PRO」というアプリを使いシュミレートした。このソフトはカメラの焦点距離、高さ、仰角なども自由に設定でき、オブジェクト(対象物)も豊富に揃っていて自由にレイアウト出来る。タイムラインを拡大出来ないなど、操作上の改善点はあるがかなり優秀なソフトだ。

f:id:shin1973:20180121220625p:imagef:id:shin1973:20180121220651p:imagef:id:shin1973:20180121220814p:imagef:id:shin1973:20180121220844p:imagef:id:shin1973:20180121220948p:imagef:id:shin1973:20180121221028p:image

ドローン、人物の軌道は以下のようになった(前半のみ)。

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ドローンはDJI社のINSPIRE2。

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2マンオペレーションだが、カメラのパン出来る幅は限られている為、曲線を描く飛行は動線を旋回させながらドローン自体も旋回させる必要がある。これはとてつもなく難しい。遠藤氏も自分からプランを見せられ、「どうしたものかと思った」と後に語った。しかしそのような不安は顔に出さず、飄々と挑戦してくれた。本番前日に何度もリハーサルした甲斐あって、何とtake2でOK! 予定終了時刻を2時間も巻いて終えることが出来た。エキストラに来てくださったBRAHMANのファンの方々も想定以上に早く終えた為、バス待ちが数時間あったが、自車で来た方々が全員を分乗させてくれて石巻市街まで運んでくれた。ファンの結束力には驚かされた。

  写真は参加者全員での記念撮影。とても穏やかでいい日でした。

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 最前列左隅筆者、真ん中榊監督、最後列左隅木村さん、最後列右から3人目遠藤氏(ドローンをオペレートしているため下を向いている)

◾️謹賀新年

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。

「キアロスクーロ撮影事務所」も法人化に相成り、株式会社として本格始動致します。

もともとは「自主映画や低予算作品でもキチンとした機材、人材で撮影を行っていく」ということを念頭に設立した事務所。ほぼ非営利組織と言えるものでした。ただ時間と共に人も増え、機材も増え、気づけば自分が使わない機材のために私財を投じ、膨大な経費がかかるようになっていました。カメラも陳腐化のスピードが高速化し、2年に一度は見直していかないと時代の趨勢に置いていかれるようになりました。機材の低価格化は喜ばしいことなのですが、映画やドラマが主のウチのような事務所では機材レンタルは高くつき、結局無理してでも購入することが多くなりました。非営利組織では、立ち向かえない状況になったのです。

  幸い、この期間に数多くの作品を手がけさせていただき実績だけは積み重ねることが出来ました。逆に言えばそれしかないのも事実です。豊富な資金もありません。ただ実績はお金では買えません。時間も必要です。その唯一無二の武器を信じて闘っていくほかありません。

  商売の基本である「何をどのような形でコンシューマーに届けることが出来るか」を常に肝に銘じます。短期的にはその対象はプロダクションになるのですが、長期的には観てくださる方々です。その双方に訴求できるような撮影を行なっていく所存です。

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今年の初めに一昨年の秋に撮影した2作品が公開されます。『blank13』と『生きる街』です。斎藤工さん、榊英雄さん、いずれの監督も役者であり、双方の作品にお互い出演しているという、やや不思議な経験をさせて頂きました。全く異なる内容の2作品ですが、自分らしいルックは作れたと思っております。撮影の詳細はまた違う機会に書こうと思っております。

  フィルム撮影と異なり可視化できる現在、カメラマンが居なくても映画を撮影することが出来ます。実際、ソダーバーグやロドリゲスのように監督自ら撮影する人も少なくありません。それでも我々が存在する意義を常に念頭に置き、自らを洗練させていくほかないのです。我々の商品は「美意識」に他ならないのです。

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  “映画の街”調布の古刹「深大寺」と古社「布多天神社」の札を元朝参りで頂いて来ました。何か今年はいい年になりそうな気がしております。

 

  今年一年もどうか宜しくお願い致します。

 

平成30年元日

◾️NGT48『世界はどこまで青空なのか?』MVの撮影について

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https://youtu.be/qGBvujY6bjg

  MVは年に1、2本程度手掛けるかどうかで、正直畑違いだと認識している。撮影助手の頃は数多くのMV現場をこなしてきたがカメラマンになってからは“映画的なもの”を求めてくる場合以外にはほとんど声が掛からない。知人も少ない。山戸結希監督とは面識がなかったのだが1年くらい前から何度か仕事のオファーを頂いていた。タイミングが合わず立て続けに断らざるを得なかったが、今回はたまたま入る予定だった作品がズレ、スケジュールが空いた箇所で喜んで受けさせてもらった。が、ほぼ経験のないアイドルもののMVということでやや戸惑った。まずメンバーの顔と名前を覚えることから始まり、山戸監督の作品を見て、関連するMVを鑑賞、検討した。監督と初めて会うのも新潟に行くロケハン当日の新幹線。初対面の制作スタッフ、初対面の監督と慣れないカメラマン、完全アウェーの気分で新潟に向かう。48系のMVの作り方は自分の知っているものともまた異なり、新鮮この上ない。山戸監督には、なぜ自分を指名してくれたのかを尋ねる。聞けば2014年公開のオムニバス『放課後ロスト』内の『倍音』(大久明子監督)という作品が好きで劇場で見たときに震えた、という。

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放課後ロスト予告編  https://m.youtube.com/watch?v=futjK1NpuUs 

  この作品は、上下を意図的に空けることで“空間”を意識させている。さらにアスペクトレシオを今ではマイナーなヨーロピアンビスタ(1:1.66)を採用することで効果を狙った。そんなにヒットも話題にもなっていない作品を非常に評価してくれていることは作り手として非常に嬉しかった。フィルターで効果を狙う撮影はここ数年間、ほぼ行なっていない。アイドルMVを見ると大抵フィルターが入っている。参考にはしたが、自分の美意識を騙すことは出来ないし自分らしくもないので『放課後ロスト』同様、SOFT F/Xを薄く入れることのみとした。

  カメラは汎用性の高いARRI AMIRA。自分の手がける予算規模の作品では使える機会は少ないけど、感覚的に馴染みがいい。一時のRED系の勢いに対し、ARRI勢がユーザーの支持を得て盛り返してるのは当然と言える。ハイレゾのみが“高画質”の要素ではない。

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  Bカメには、映画系よりもコマーシャル系のカメラマンがいいと考え、同級生の橋本太郎に参加してもらった。会うこと自体が15年ぶりだったけど、互いにブランクを感じさせず楽しい撮影となった。映画学校の卒業制作『青〜chong〜』は、監督が李相日(『悪人』『怒り』)、主演が眞島秀和、カメラマンが自分、チーフ助手が山田康介(『シン・ゴジラ』『ホットロード』)、セカンド助手が橋本、照明が飯村浩史(『岸辺の旅』)というチームだった。皆第一線で活躍していて、今となってはスゴいメンバーになっている。

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  現場では、台本とショットリストに則って撮影していく。 しかし“思いつき”も採用し、瞬発力を発揮した現場だったと思う。山戸監督の“語彙力”には目をみはるものがあり、若い人たちに支持を受ける理由が分かる。一度、しっかり長編で組んでみたい。

  反省点としては、編集の感じをキチンと把握しきっていなかったこと。MVはいわば“いいとこ使い”で良い。映画系の人間はカットの初めから終わりまで使えるようにきっちり撮影してしまう。ここまでテンポの早いカッティングならもっとカメラをぶん回しても良かった。でもメインカメラでそれをやるとヤケドすることもある。葛藤を抱えた分、Bカメの重要度は高かった。

  新潟万代シティ、山古志村と、濃厚な2日間の撮影だった。雨の可能性もあったがどうにか回避。ドローンも無事に飛ばせた。パイロットは今回初めて組ませてもらったヘキサメディアの遠藤氏。非常に卓越したテクニックで瞬時にこちらの意図を汲んでもらえた。間違いなく今まで組んだドローンパイロットの中でナンバーワンの腕前。長年行ってみたかった山古志に来れたことも感慨深い。

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  ミュージックビデオ、特にアイドル系のものは難しさを感じる。特定のファンに向けるのか、一般に訴求させるのか。恐らく両軸を見据えることが最良なのだろうけど、なかなかそのビジョンを持ち得ない。戸惑いながらも最終的には自分の美意識のものに落とし込めた。たまにはこういう撮影も刺激的に感じる。

 

 

◾️『報復〜かえし〜』の撮影について

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  この作品の仮題は『罪の追憶』というものが付かれていた。どことなく韓国映画を彷彿とさせるタイトルである。劇場用作品ではあるがDVDパッケージ2本にするというのは前段階から決まっていたので、所謂“Vシネマ”の枠組みだ。1週間程度で3時間近い作品を撮影する、かつてよく手掛けた低予算体制、腕がなる思いだ。内容はしかもフィルムノワール風。同級生を殺めてしまい出所してきた青年と娘を殺された父親の対峙。田舎を舞台にし、そこの悪徳警官、ヤクザなどが絡んでくる。自分のイメージは完全に“雑貨店のドストエフスキー”ことジム・トンプソンの世界だった。自分指名というわけではなくウチの事務所へのオファーだったが、これは自分がやらなければならないジャンルの作品だと思い、自ら手を挙げた。

  膨大な分量の割に撮影照明予算はあまりない。しかもスチールも撮影しなくてはならない。そこで変則的な体制を考えた。カメラは低照度に強いSONY α7sIIをメインカメラに据え、サブカメラにRX10IIIというレンズ一体型デジタルスチルカメラ。要は2カメで撮影し、状況に応じてスチールに切り替えていこうという作戦である。メインカメラは自分が、サブカメラをウチの吉田淳志が担当し、助手はフォーカスの岡崎孝行1人。サブカメラのフォーカスは吉田が自分で行う。照明は大庭郭基氏1人のみ。これは基本的にアヴェイラブルでいきますよ、という意思表明である。照明部を組んでしまうとある程度キチンとしたライティングを組まなくてはならなくなり、スケジュール消化が厳しくなるのが予想された。LEDのライトパネルを複数台とHMI575を2台、これでほとんど全てである。混載し、ヨーイドンで撮影照明機材を下ろすというスタイル。撮影部、照明部の隔てをなくす自主映画的スタイルとも言える。この体制にした理由が実はもう一つある。撮影時期は極寒の1月。インフルエンザなどにカメラマンである自分が罹り外出不可になった場合、撮影が中断してしまう。カメラマンのバックアップということも考慮しなくてはならなかった。実際、ある日吐き気が収まらず、半日ほど現場を吉田に任せる場面があった。撮影のリスクヘッジという考え方も大切かもしれない。

  異なるカメラ2台というのは反省点もあった。クランクイン前にグレーディングテストなどを行い、2種類のカメラの親和性を確認はしていたのだが、極度に悪い条件では行っていなかった。暗部の階調や粒状性に大きな差が出てしまった。やはり同じカメラを2台用意すべきだったと大いに反省した。

  RONINも使っていたのだが、挙動がおかしくなり、重要なシーンで使用が出来なくなった。あとで購入先で調べたところ、初期化すれば治ることを知る。トラベルシューティングが出来ていなかったことが悔やまれる。助監督経験が豊富な山口監督は「モニターは必要ないです」というスタイルを採ってくれたからこそのこの体制であったが、モニターなしの弊害が一箇所出てしまった。センサーに付着したチリの写り込みに気づかなかったのである。これは編集時に初めて気づき暗澹としてしまった。グレーディング等で誤魔化しはしたが撮影部としてはかなり痛いミスケースとなった。確認に次ぐ確認を怠ってはいけない。

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  主演は佐野岳津田寛治(敬称略)。それに木下美咲、近藤芳正内田理央、戸塚純貴、小宮有紗榊英雄、森本のぶ、ラサール石井ガダルカナル・タカ。実に多彩でモザイク模様のキャスティング。矮小で利己的なキャラクターのアンサンブルだが、いずれも粒が立っているのは脚本がいいためか、演出が優れているのか、演者の技術の賜物か。主演の2人のキャラクターの陰鬱さの割に全体のトーンは決して暗くはない。極寒の中、薄着で通してくれた主演の2人には本当に感謝したい。撮影後、佐野岳さんに寒さを顔に出さないことを褒めたら、「めちゃくちゃ寒かったっすよ!」とのこと。メソッド的に役づくりをしていた。彼は運動神経の良さで知られるが、今回はそのようなシーンは全くない。新たな面を見てもらえたらと思う。津田さんも役に入りきってテストからいつも全力投球。相当肉体的精神的に負担を掛けたと思う。彼らの本気の芝居を堪能してもらえたらと思う。

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カメラ:SONY α7sII、RX10III

撮影:早坂伸、吉田淳志   撮影助手:岡崎孝行   照明:大庭郭基   グレーディング:山口武志(GLADSAD)

 

 

◾️連続ドラマW『沈黙法廷』の撮影について

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  テレパックに所属する村上牧人と東田陽介監督とは一昨年のドラマW『誤断』以来のコンビ。一定の信頼感がある現場はスッと中に入りやすい。プロデューサーからは独特のトーンを作ってほしいというオーダーがあり、『誤断』とも異なるルックを追及した。予算的に厳しい部分もあったがどうしてもアリフレックス社のALEXAを使いたかった。ALEXA MINIなどの新機種は無理であるがクラシックALEXAはコマーシャルの現場では使われなくなっているので特殊映材社から格安で借りた。アリフレックス社のカメラの特性は新機種も旧機種も同じ様なトーンで撮れるというところ。元々フィルムユーザーを想定して作られているのでラチチュードを最大限に活かすように設定されているのを感じる。デジタルが表現を苦手とする高輝度からクリップするまでのナチュラルさは自分の知るところ他のメーカーの追随を許さない。ファインダーに拘るところもフィルムカメラメーカーの矜持だ。液晶モニターの問題点は実際撮影している光軸とカメラマンの目線角度の差違が大きいところだ。ファインダーだと差異を最小にでき、右目で撮影画面を、左目で周りの環境や役者のフレーム外の動きを視認できる。フィルムカメラの時は当たり前だったことだが今となっては却って新鮮に思えてしまう。アレクサのデメリットはその重量にある。デジタルシネマとは思えない重さ。その重量感も画には映るもので、今回の法廷劇のルックには合うと捉えることにした。本来このような撮影の場合、ズームレンズと単焦点レンズを揃えるのだが、予算の都合と自分と村上監督の趣向を考え、全て単焦点レンズにした。その代わり18mmから180mmまでのツァイス・ファーストレンズを全て発注した。大正解だったのがマイナーなディスタンスの65mm。恐らく今回最も使用したレンズだ。ナメの画やバストショットなどに威力を発揮する。50mmほど情報過多ではなく、85mmほど過小でもない。実はこのレンズを使うためにALEXAにした部分も実はある。写真はアレクサと自作ローアングルプレート。

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   刑事の捜査シーンなどで流麗なカメラワークが必要なのはホンの段階で分かっていたので、ステディカムオペレーターを呼ぶよりも軽量な別カメラとジンバルで対応することにした。自前のSONY α7sIIに助手の岡崎が持っていたコンタックス・ツァイスレンズを変換して取り付け、RONIN M に載せた。内部収録なのでビットレートが少なくメインカメラのALEXAとの親和性が取れるか不安であったが事前テストである程度いけるという確証は得ていた。

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   現場DITにGLADSAD社の阿部弘明氏。基本LUTをクランクイン前に作り、現場で当ててモニター出し。状況に応じて現場グレーディングを行った。無理を言ってビデオアシストソフトウェアQTAKEも出してもらい、 効率的に撮影データを整理していった。いつでも撮影済みのクリップを読み出すことが可能で様々な確認事項に力を発揮した。ただそれが当たり前のようになって有り難みを皆が感じなくなってきてしまったような気はしたが。

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  GLADSAD社には毎回ワークフローチャート作成を依頼している。撮影前にポスプロ担当者に一堂に会してもらって打ち合わせし、実際に流れをテストして作成する。今回は以下の通り。撮りは23.976fpsで、納品が59.94i。どこでどう変換するかが議論となった。

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  GLADSAD社でコピー後Media Encoderで29.97のオフライン用データを書き出し、オフライン作業場で59.94に変換してもらった。グレーディングはタイムラインをエアで反映出来るようにしたため効率的に作業することができた。

  撮影自体はシンプルに行った。リアルなライティング、ノーフィルター。台本に則り芝居を切り取る。今回は永作博美さん、市原隼人さん、田中哲司さん、杉本哲太さん、甲本雅裕さん等、実力のある役者ばかりだったので出発するアベレージ点が高くやり易かった。一方で演出・撮影側の準備が足りていないと露見することとなり緊張感があった。天候不順でスケジュールを上手く消化出来ないところもあったがスムーズにこなせたとは思っている。

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  角川大映スタジオに法廷セットを組ませてもらった。自分の手掛ける作品でこのような立派なセットを建ててもらうことは滅多にない。建て込み時、最初にライティングを組んだら光量不足。修正したら光量オーバー。3回目でようやくいいバランスに。もう少しカンを研ぎ澄ませたいところ。光の拡散を抑えるエッグプレートが効力を発揮した。照明の田島慎氏のアイディア。感謝。

 『十二人の怒れる男』『評決』『Q&A』等、司法を多く題材にしたシドニー・ルメット監督作品が自分が映画界に入るきっかけのひとつだった。矢田部弁護士には『評決』のポール・ニューマンが透けて見える気がする。ルメットは司法制度に人間の良心が宿ると思っていたのではないだろうか。矛盾や葛藤があるにせよ全能ではない人間が産み出した最も尊いシステム。人が人を裁く不確実さにおいて良心のみが拠るところだ。民意をより反映させるために裁判員裁判制度は始まった。が一般人である裁判員は世論の影響を受けやすい。いかに心象操作に民衆が脆いかは松本サリン事件や東電OL殺人事件で我々も身につまされている。裁判制度により多くの者が興味を持つこと、それしか冤罪をなくす方策はない。『沈黙法廷』を撮影してそう思った。 

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【撮影データ】

カメラ:ARRI ALEXA plus (特殊映材社)

レンズ:Zeiss ファーストレンズ 18、20、25、28、35、40、50、65、85、100、135、180mm(特殊映材社)

撮影助手:岡崎孝行、渋谷浩未、永仮彩香、水上舜

DIT:阿部弘明(GLADSAD)

グレーディング:山口武志、田口朋美(GLADSAD)

特機:グリフィス