陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

◾️NGT48『世界はどこまで青空なのか?』MVの撮影について

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https://youtu.be/qGBvujY6bjg

  MVは年に1、2本程度手掛けるかどうかで、正直畑違いだと認識している。撮影助手の頃は数多くのMV現場をこなしてきたがカメラマンになってからは“映画的なもの”を求めてくる場合以外にはほとんど声が掛からない。知人も少ない。山戸結希監督とは面識がなかったのだが1年くらい前から何度か仕事のオファーを頂いていた。タイミングが合わず立て続けに断らざるを得なかったが、今回はたまたま入る予定だった作品がズレ、スケジュールが空いた箇所で喜んで受けさせてもらった。が、ほぼ経験のないアイドルもののMVということでやや戸惑った。まずメンバーの顔と名前を覚えることから始まり、山戸監督の作品を見て、関連するMVを鑑賞、検討した。監督と初めて会うのも新潟に行くロケハン当日の新幹線。初対面の制作スタッフ、初対面の監督と慣れないカメラマン、完全アウェーの気分で新潟に向かう。48系のMVの作り方は自分の知っているものともまた異なり、新鮮この上ない。山戸監督には、なぜ自分を指名してくれたのかを尋ねる。聞けば2014年公開のオムニバス『放課後ロスト』内の『倍音』(大久明子監督)という作品が好きで劇場で見たときに震えた、という。

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放課後ロスト予告編  https://m.youtube.com/watch?v=futjK1NpuUs 

  この作品は、上下を意図的に空けることで“空間”を意識させている。さらにアスペクトレシオを今ではマイナーなヨーロピアンビスタ(1:1.66)を採用することで効果を狙った。そんなにヒットも話題にもなっていない作品を非常に評価してくれていることは作り手として非常に嬉しかった。フィルターで効果を狙う撮影はここ数年間、ほぼ行なっていない。アイドルMVを見ると大抵フィルターが入っている。参考にはしたが、自分の美意識を騙すことは出来ないし自分らしくもないので『放課後ロスト』同様、SOFT F/Xを薄く入れることのみとした。

  カメラは汎用性の高いARRI AMIRA。自分の手がける予算規模の作品では使える機会は少ないけど、感覚的に馴染みがいい。一時のRED系の勢いに対し、ARRI勢がユーザーの支持を得て盛り返してるのは当然と言える。ハイレゾのみが“高画質”の要素ではない。

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  Bカメには、映画系よりもコマーシャル系のカメラマンがいいと考え、同級生の橋本太郎に参加してもらった。会うこと自体が15年ぶりだったけど、互いにブランクを感じさせず楽しい撮影となった。映画学校の卒業制作『青〜chong〜』は、監督が李相日(『悪人』『怒り』)、主演が眞島秀和、カメラマンが自分、チーフ助手が山田康介(『シン・ゴジラ』『ホットロード』)、セカンド助手が橋本、照明が飯村浩史(『岸辺の旅』)というチームだった。皆第一線で活躍していて、今となってはスゴいメンバーになっている。

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  現場では、台本とショットリストに則って撮影していく。 しかし“思いつき”も採用し、瞬発力を発揮した現場だったと思う。山戸監督の“語彙力”には目をみはるものがあり、若い人たちに支持を受ける理由が分かる。一度、しっかり長編で組んでみたい。

  反省点としては、編集の感じをキチンと把握しきっていなかったこと。MVはいわば“いいとこ使い”で良い。映画系の人間はカットの初めから終わりまで使えるようにきっちり撮影してしまう。ここまでテンポの早いカッティングならもっとカメラをぶん回しても良かった。でもメインカメラでそれをやるとヤケドすることもある。葛藤を抱えた分、Bカメの重要度は高かった。

  新潟万代シティ、山古志村と、濃厚な2日間の撮影だった。雨の可能性もあったがどうにか回避。ドローンも無事に飛ばせた。パイロットは今回初めて組ませてもらったヘキサメディアの遠藤氏。非常に卓越したテクニックで瞬時にこちらの意図を汲んでもらえた。間違いなく今まで組んだドローンパイロットの中でナンバーワンの腕前。長年行ってみたかった山古志に来れたことも感慨深い。

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  ミュージックビデオ、特にアイドル系のものは難しさを感じる。特定のファンに向けるのか、一般に訴求させるのか。恐らく両軸を見据えることが最良なのだろうけど、なかなかそのビジョンを持ち得ない。戸惑いながらも最終的には自分の美意識のものに落とし込めた。たまにはこういう撮影も刺激的に感じる。

 

 

◾️『報復〜かえし〜』の撮影について

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  この作品の仮題は『罪の追憶』というものが付かれていた。どことなく韓国映画を彷彿とさせるタイトルである。劇場用作品ではあるがDVDパッケージ2本にするというのは前段階から決まっていたので、所謂“Vシネマ”の枠組みだ。1週間程度で3時間近い作品を撮影する、かつてよく手掛けた低予算体制、腕がなる思いだ。内容はしかもフィルムノワール風。同級生を殺めてしまい出所してきた青年と娘を殺された父親の対峙。田舎を舞台にし、そこの悪徳警官、ヤクザなどが絡んでくる。自分のイメージは完全に“雑貨店のドストエフスキー”ことジム・トンプソンの世界だった。自分指名というわけではなくウチの事務所へのオファーだったが、これは自分がやらなければならないジャンルの作品だと思い、自ら手を挙げた。

  膨大な分量の割に撮影照明予算はあまりない。しかもスチールも撮影しなくてはならない。そこで変則的な体制を考えた。カメラは低照度に強いSONY α7sIIをメインカメラに据え、サブカメラにRX10IIIというレンズ一体型デジタルスチルカメラ。要は2カメで撮影し、状況に応じてスチールに切り替えていこうという作戦である。メインカメラは自分が、サブカメラをウチの吉田淳志が担当し、助手はフォーカスの岡崎孝行1人。サブカメラのフォーカスは吉田が自分で行う。照明は大庭郭基氏1人のみ。これは基本的にアヴェイラブルでいきますよ、という意思表明である。照明部を組んでしまうとある程度キチンとしたライティングを組まなくてはならなくなり、スケジュール消化が厳しくなるのが予想された。LEDのライトパネルを複数台とHMI575を2台、これでほとんど全てである。混載し、ヨーイドンで撮影照明機材を下ろすというスタイル。撮影部、照明部の隔てをなくす自主映画的スタイルとも言える。この体制にした理由が実はもう一つある。撮影時期は極寒の1月。インフルエンザなどにカメラマンである自分が罹り外出不可になった場合、撮影が中断してしまう。カメラマンのバックアップということも考慮しなくてはならなかった。実際、ある日吐き気が収まらず、半日ほど現場を吉田に任せる場面があった。撮影のリスクヘッジという考え方も大切かもしれない。

  異なるカメラ2台というのは反省点もあった。クランクイン前にグレーディングテストなどを行い、2種類のカメラの親和性を確認はしていたのだが、極度に悪い条件では行っていなかった。暗部の階調や粒状性に大きな差が出てしまった。やはり同じカメラを2台用意すべきだったと大いに反省した。

  RONINも使っていたのだが、挙動がおかしくなり、重要なシーンで使用が出来なくなった。あとで購入先で調べたところ、初期化すれば治ることを知る。トラベルシューティングが出来ていなかったことが悔やまれる。助監督経験が豊富な山口監督は「モニターは必要ないです」というスタイルを採ってくれたからこそのこの体制であったが、モニターなしの弊害が一箇所出てしまった。センサーに付着したチリの写り込みに気づかなかったのである。これは編集時に初めて気づき暗澹としてしまった。グレーディング等で誤魔化しはしたが撮影部としてはかなり痛いミスケースとなった。確認に次ぐ確認を怠ってはいけない。

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  主演は佐野岳津田寛治(敬称略)。それに木下美咲、近藤芳正内田理央、戸塚純貴、小宮有紗榊英雄、森本のぶ、ラサール石井ガダルカナル・タカ。実に多彩でモザイク模様のキャスティング。矮小で利己的なキャラクターのアンサンブルだが、いずれも粒が立っているのは脚本がいいためか、演出が優れているのか、演者の技術の賜物か。主演の2人のキャラクターの陰鬱さの割に全体のトーンは決して暗くはない。極寒の中、薄着で通してくれた主演の2人には本当に感謝したい。撮影後、佐野岳さんに寒さを顔に出さないことを褒めたら、「めちゃくちゃ寒かったっすよ!」とのこと。メソッド的に役づくりをしていた。彼は運動神経の良さで知られるが、今回はそのようなシーンは全くない。新たな面を見てもらえたらと思う。津田さんも役に入りきってテストからいつも全力投球。相当肉体的精神的に負担を掛けたと思う。彼らの本気の芝居を堪能してもらえたらと思う。

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カメラ:SONY α7sII、RX10III

撮影:早坂伸、吉田淳志   撮影助手:岡崎孝行   照明:大庭郭基   グレーディング:山口武志(GLADSAD)

 

 

◾️連続ドラマW『沈黙法廷』の撮影について

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  テレパックに所属する村上牧人と東田陽介監督とは一昨年のドラマW『誤断』以来のコンビ。一定の信頼感がある現場はスッと中に入りやすい。プロデューサーからは独特のトーンを作ってほしいというオーダーがあり、『誤断』とも異なるルックを追及した。予算的に厳しい部分もあったがどうしてもアリフレックス社のALEXAを使いたかった。ALEXA MINIなどの新機種は無理であるがクラシックALEXAはコマーシャルの現場では使われなくなっているので特殊映材社から格安で借りた。アリフレックス社のカメラの特性は新機種も旧機種も同じ様なトーンで撮れるというところ。元々フィルムユーザーを想定して作られているのでラチチュードを最大限に活かすように設定されているのを感じる。デジタルが表現を苦手とする高輝度からクリップするまでのナチュラルさは自分の知るところ他のメーカーの追随を許さない。ファインダーに拘るところもフィルムカメラメーカーの矜持だ。液晶モニターの問題点は実際撮影している光軸とカメラマンの目線角度の差違が大きいところだ。ファインダーだと差異を最小にでき、右目で撮影画面を、左目で周りの環境や役者のフレーム外の動きを視認できる。フィルムカメラの時は当たり前だったことだが今となっては却って新鮮に思えてしまう。アレクサのデメリットはその重量にある。デジタルシネマとは思えない重さ。その重量感も画には映るもので、今回の法廷劇のルックには合うと捉えることにした。本来このような撮影の場合、ズームレンズと単焦点レンズを揃えるのだが、予算の都合と自分と村上監督の趣向を考え、全て単焦点レンズにした。その代わり18mmから180mmまでのツァイス・ファーストレンズを全て発注した。大正解だったのがマイナーなディスタンスの65mm。恐らく今回最も使用したレンズだ。ナメの画やバストショットなどに威力を発揮する。50mmほど情報過多ではなく、85mmほど過小でもない。実はこのレンズを使うためにALEXAにした部分も実はある。写真はアレクサと自作ローアングルプレート。

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   刑事の捜査シーンなどで流麗なカメラワークが必要なのはホンの段階で分かっていたので、ステディカムオペレーターを呼ぶよりも軽量な別カメラとジンバルで対応することにした。自前のSONY α7sIIに助手の岡崎が持っていたコンタックス・ツァイスレンズを変換して取り付け、RONIN M に載せた。内部収録なのでビットレートが少なくメインカメラのALEXAとの親和性が取れるか不安であったが事前テストである程度いけるという確証は得ていた。

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   現場DITにGLADSAD社の阿部弘明氏。基本LUTをクランクイン前に作り、現場で当ててモニター出し。状況に応じて現場グレーディングを行った。無理を言ってビデオアシストソフトウェアQTAKEも出してもらい、 効率的に撮影データを整理していった。いつでも撮影済みのクリップを読み出すことが可能で様々な確認事項に力を発揮した。ただそれが当たり前のようになって有り難みを皆が感じなくなってきてしまったような気はしたが。

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  GLADSAD社には毎回ワークフローチャート作成を依頼している。撮影前にポスプロ担当者に一堂に会してもらって打ち合わせし、実際に流れをテストして作成する。今回は以下の通り。撮りは23.976fpsで、納品が59.94i。どこでどう変換するかが議論となった。

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  GLADSAD社でコピー後Media Encoderで29.97のオフライン用データを書き出し、オフライン作業場で59.94に変換してもらった。グレーディングはタイムラインをエアで反映出来るようにしたため効率的に作業することができた。

  撮影自体はシンプルに行った。リアルなライティング、ノーフィルター。台本に則り芝居を切り取る。今回は永作博美さん、市原隼人さん、田中哲司さん、杉本哲太さん、甲本雅裕さん等、実力のある役者ばかりだったので出発するアベレージ点が高くやり易かった。一方で演出・撮影側の準備が足りていないと露見することとなり緊張感があった。天候不順でスケジュールを上手く消化出来ないところもあったがスムーズにこなせたとは思っている。

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  角川大映スタジオに法廷セットを組ませてもらった。自分の手掛ける作品でこのような立派なセットを建ててもらうことは滅多にない。建て込み時、最初にライティングを組んだら光量不足。修正したら光量オーバー。3回目でようやくいいバランスに。もう少しカンを研ぎ澄ませたいところ。光の拡散を抑えるエッグプレートが効力を発揮した。照明の田島慎氏のアイディア。感謝。

 『十二人の怒れる男』『評決』『Q&A』等、司法を多く題材にしたシドニー・ルメット監督作品が自分が映画界に入るきっかけのひとつだった。矢田部弁護士には『評決』のポール・ニューマンが透けて見える気がする。ルメットは司法制度に人間の良心が宿ると思っていたのではないだろうか。矛盾や葛藤があるにせよ全能ではない人間が産み出した最も尊いシステム。人が人を裁く不確実さにおいて良心のみが拠るところだ。民意をより反映させるために裁判員裁判制度は始まった。が一般人である裁判員は世論の影響を受けやすい。いかに心象操作に民衆が脆いかは松本サリン事件や東電OL殺人事件で我々も身につまされている。裁判制度により多くの者が興味を持つこと、それしか冤罪をなくす方策はない。『沈黙法廷』を撮影してそう思った。 

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【撮影データ】

カメラ:ARRI ALEXA plus (特殊映材社)

レンズ:Zeiss ファーストレンズ 18、20、25、28、35、40、50、65、85、100、135、180mm(特殊映材社)

撮影助手:岡崎孝行、渋谷浩未、永仮彩香、水上舜

DIT:阿部弘明(GLADSAD)

グレーディング:山口武志、田口朋美(GLADSAD)

特機:グリフィス

 

 

◼︎ 『下北沢ダイハード』の撮影について

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  ドラマ24『下北沢ダイハード』が21日よりオンエアされます。下北沢を舞台に、小劇場系劇作家×PV系映像作家の組み合わせに自分のような映画系スタッフが参加しているオムニバス作品。テレビ東京らしい斬新な企画。と言うのも予算に限りがある深夜ドラマは、効率良く撮影するために場所を限定して撮ることが常識となっているが、今回はオムニバスであって毎回場所が異なった。1話を2日乃至3日で撮影するという極めてスキルを要する撮影となった。全11話。

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  当初プロデューサーサイドから、「全編iPhoneで撮影出来ないか?」という相談があった。リスクを承知の上で前向きに検討しようと様々なグッズやアタッチメントレンズ、映画撮影アプリを購入して実際に下北沢でテスト撮影を試みた。デイシーンのようなハイキーな画ではかなり綺麗に写るのだが低照度のナイター撮影となると暗部の情報のなさが顕著に現れ、「4k納品」というクオリティに程遠いと言わざるを得なかった。細かいシャッター開角度の調整が不可のためにフリッカーが出てしまう、明るいところから暗いところにパンするとノイズが出る、などの問題点も確認することが出来た。そもそも合成などが少なからずある作品においてiPhoneを選択する意味を見出せず、プロデューサーに説明し見送りの決定を下した。時には勇気ある撤退も必要だと思う。『タンジェリン』などiPhone撮影の映画も増えているが、デイシーンや白夜など大抵撮影条件が良いものが多い。2012年位にパク・チャヌク監督が『Night Fishing』という作品でiPhoneでのナイター撮影作品を撮っている。日本未公開で観られないのが惜しい。S・ソダーバーグも新作をiPhoneで撮ったと言う。

 

  採用したカメラはPXW-FS7というありきたりなものとなった。今回の実際の下北沢にあるスナックやライブハウスなど、狭いところでの撮影が多く軽量でコンパクトなこのカメラの選択は間違いではなかった。自前のα7sIIも常に帯同していたが、スチール撮影とフルフレームサイズがほしい時以外は使用しなかった。圧縮がかなり異なるため同じメーカーとは言え「混ぜると危険」である。

  普段、映画の時などは単玉中心に撮影を行うが、今回はタイトなスケジュールをこなすためにレンズチェンジの回数を少なくすることが命題となった。今年になって出たシグマの18-35mm T2.0が今回の撮影に向いていると思ってレンタル機材を探したがほとんど出回っておらず、急遽購入するしかなかった。予算の厳しい深夜ドラマでは、使用料的にまともに機材レンタルは使えない。今回も相当な出費を強いられた。事務所的には大赤字だが「先行投資」と割り切るしかなかった。

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  このレンズは素晴らしかった。ズームと言うよりはバリアブル・プライム(複合単玉)と言った方がしっくりくるディスタンスだが、全体の6割はこのレンズで撮影した。周辺歪曲やフォーカスを送った際に生じる画角のズレ=ブリージングもあまり感じず、エポックメーキングなレンズが出たと感じた。シグマは同時に50-100mm T2.0と言うのも出しているが、こちらはブリージングが酷くて購入は見送っている。

  撮影現場はまず監督のアイディアを聞いて意見を言うというスタイルをいつも以上に意識した。あまりカメラマンである自分が引っ張ると監督の持ち味を消してしまう危険性を感じていたからだ。杞憂だった。関和亮監督をはじめ、スミス監督、山岸聖太監督、細川徹監督、戸塚寛人監督いずれもしっかりしたビジョン持っていて芝居を構築するスキルを有していた。つまり自分の普段のスタイルを崩さずに取り組むことが出来た。必要なカット数を稼ぐために手持ちも多用した。前期のレンズも決して軽量ではなく、バランスもどうしても前重になってしまい、パワーでカバーするスタイルとなってしまった。1日十何時間も手持ち撮影していると肩と腰が悲鳴を上げだす。回によってはタイヤチューブでカメラを吊り、撮影したりした。

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  オムニバス作品の最大の愉しみは多くの演者と仕事出来ることだ。初めての人、旧交を温める人、様々だけど一概に言えるのは皆プロフェッショナルであり、それぞれの役へのアプローチが違っているように感じられ日々新鮮だった。撮影場所も極力嘘をつかないように実際の下北沢にある場所を多く使用している。オープニング&エンディングに使用しているバーも南口から50mくらいの場所だし(観ても分からないが)、本多劇場ヴィレッジバンガード、風知空知、王将など、立地が分かっているとより面白く観れること間違いない。中でも「珉亭のチャーハン」は劇中でも何度か言及される。撮影には使われなかったが、いかに下北沢に根づいているか分かる。自分も撮影中この赤いチャーハンを何度か頂いた。

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  下北沢という街は激しく変遷している。数年後には全く異なる景観となるだろう。脚本家・橋本忍は著書『複眼の映像』の中で、「自分は下北沢の新しい駅を見ることなく死ぬだろう」というようなことを書かれている。そこには下北沢への深い愛着を感じた。数多くの映画人、演劇人、文化人を産んだこの街は、やはり特別なのだ。撮影中、いろんな俳優、スタッフなどが現場を通りがかったり、訪れたりしてくれた。このアプローチの良さこそが下北沢の魅力。

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  写真は古田新太さん、小池栄子さんの掛け声で急遽「都夏」で開かれた打ち上げ。11人の劇作家のうち8人が参加した(左から、細川徹、根本宗子、福原充則、松井周、西条みつとし、丸尾丸一郎、上田誠、えのもとぐりむ、敬称略)。これには古田さんが「スゲー、こんなに劇作家集まるの見たことねぇ」を連発していた。これも下北沢のなせるワザか。人と人が繋がり、円環となり、異なる円環とも繋がることでさらに大きくなっていくーー。消耗するなかでそんなイメージを実感することが出来た『下北沢ダイハード』の撮影だった。

  

 

◼︎『コクウ』(R-18版題『ほくろの女は夜濡れる』)撮影について

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榊英雄監督『コクウ』が7/9から、「OP PICTURES+フェス」の一環でテアトル新宿にて上映が始まる。同フェスは女性などピンク映画に馴染みのない層にも訴求できるようR-15版を上映するもので今年4回目。非常に面白い試みで、気づけば4年連続で自作も上映されている(竹洞哲也監督『誘惑遊女 ソラとシド』(ザオパン・ツェン名義)、榊英雄監督『オナニーシスター』、『裸のアゲハ』『裸の劇団』二部作)。ギャラに見合うことのない、ピンク映画を手掛ける理由はいくつか挙げられるが、限られた予算、時間、空間の中で描ける最もドラマティックでドラスティックなものがSEXであるということに尽きる。未だ一定の俳優(特に女優)にとって「脱ぐ」「脱がない」は大きな問題であり、事務所にとってはジョーカー的な意味合いも持つ。早々にその枷を外した女優が心意気を評価されることも多いが広告系の仕事に影響がないとは言い切れない。自分の体験であるが、江川達也監督『東京大学物語』を手がけたあと、ある仕事をキャンセルされたことがある。『東京大学物語』は“脱ぎ”がないのにも関わらず、出資がソフト・オン・デマンドだったことが引っ掛かったようだ。ロケハンもした後のキャンセルは、フリーの撮影者にとって深い傷痕となった。その後クレジットを気にすることにし、Vシネなどエロ系の仕事は名前の中国語読み“ザオパン・ツェン”名義を使用することにした。その仕事を受ける際にプロデューサー、監督に名義の使用を相談して許可された場合のみ受けることとした。初めてピンク映画を手掛けた『誘惑遊女』もザオパン名義だった。翌年、コンビを組むようになっていた榊英雄監督からピンク映画の誘いを受ける。監督は名義を変えずにやるという。一瞬悩んだのも事実だが、もはや新人カメラマンでもないし、それで仕事が来なくなるのならその人たちとは縁がなかったと考えることとし、本名でクレジットした。それが『オナニーシスター』である。作品の出来にも自分の仕事にも誇りを持っているのでむしろ別名義にしなくて良かったと今では思っている。

 

役者は文字通り裸を曝け出す。曝け出すことで何かを喪うかもしれない。でも得るモノがあると信じるからこそ参加しているのだろう。ならば撮影者としてはそのポテンシャルを引き出すことが仕事である。美しいものはより美しく、禍々しいものはよりおぞましく。榊監督と組んだ前3作がコメディ色が強く、どうしても絡みにエロチシズムを出し切れなかったのが反省点としてあった。次、ピンク映画を手掛けるのなら、シリアスなものをやりたいと伝えたが監督も同じ想いだったようだ。

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  父の借金を売春し返済する朋美は事後に客にホクロを書いてもらう。そのホクロをボールペンで刺し、定着させていく。自傷行為かつ自らの身に刻み込ませる行為の裏には父親との暗い過去があった。大学時代の先輩と再会した朋美は順調に交際を進めるがホクロだらけの体では関係を結ぶことが出来ない。ついに借金を返済した朋美はホクロ除去手術を受け、綺麗な体を取り戻し、プロポーズを受ける。結婚の報告をしに久しぶりに実家に戻る朋美であったがーー。

  榊監督のアイディアを三輪江一が脚本の形にした。全編を通して笑いはほとんどない。ホンを読んだ時に頭に浮かんだイメージはキム・ギドクサマリア』。一見不可解な少女の行動が身につまされて感じられる、そのような朋美の感情を丁寧になぞることに集中した。撮影日数3日(最終日は翌日昼まで撮影したので実質3日半)の中では初動から演じ手が役を把握していないと修正することは難しい。主演の戸田真琴は演じるということを本質的に分かっている女優で、こちらが作ってきたイメージとうまくマッチした。感情を込めることが実にリアルで、恐らく自分や役に嘘をついていないことに拠るのだろう。末恐ろしい女優が誕生したと感じた。

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朋美の同僚でシングルマザーの派遣社員役とみやまあゆみも出色。これまで全ての榊監督のピンク作品に出ているレギュラー役者だが、あのポジションの俳優がいいと作品がよく締まる。朋美と婚約する潤役は可児正光。現場経験の薄さや所作などに課題があったが、映画に映った彼に好感を持つ人も多いと思う。“絡み”という芝居は実に技術が必要で、それを撮影する側もスキルを要求される。今回、川瀬陽太さんの絡みを見て、改めてそのことを痛感している。ピンク映画のような低予算で撮影日数が限られている現場は演技、撮影の技術の宝庫とも言える。そこから見えて来る世界もあるのだ。

  映画とは予算の多寡に関わらず、人間を描くもの。今村昌平監督は生前、「いかに人間とは汚らしいものか、いかに助平なものか、そこを描け!」と口すっぱく指導していた。そこから逆説的に浮かび上がる人間賛歌こそが映画であると。キラキラ系の映画もいいが、泥沼から覗き込む映画もまた美しい。

 

【撮影データ】

SONY PXW-FS7MKⅡ HD収録、S-LOG3

Zeiss ZF レンズ

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◼︎『アリーキャット』の撮影について

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  榊英雄監督『アリーキャット』は2016年の1/17から31日にかけて行われた。監督から「窪塚とKJ主演のロードムービーの企画がある」と聞いたのは前年晩夏だったろうか。80年代後半からのミニシアターブームの下、青春を過ごした者にとって“ロードムービー”という言葉は魔物だ。ジャームッシュヴェンダースアンゲロプロスキアロスタミカウリスマキーー。荒涼とした風景をフィルムという銀塩に刻み込むことに魅入られてこの業界に足を踏み入れた。ジャームッシュヴェンダースの映画を支えた撮影監督が同じ人物ということに気づくのはそう時間は掛からなかった。オランダ人ロビー・ミューラー。2002年のマイケル・ウィンターボトム監督『24アワー・パーティー・ピープル』を最後に闘病生活を送っていると伝え聞く。ジャン=イヴ・エスコフィエ同様、自分達の世代にとっては憧憬の撮影監督だった。

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ミューラーは極端にパースを消す。24mmメインで撮影された『パリ、テキサス』でおいてさえパースの印象はない。映画という立体的空間をあえて平面的に描く。それが逆説的に“奥行き”を与えている、というのが自分のミューラー評だ。“ロードムービー”の映画的文体は彼が構築したということに異論を唱える人は少ないだろう。一人のカメラマンが映画ジャンルの代名詞になっている。当然自分の血肉にもなっており、ミューラーっぽさが『アリーキャット』の随所に出ていると思っている。

  榊監督とはロードムービーというよりはアメリカン・ニューシネマの話を多くしたと思う。特にシャッツバーグの『スケアクロウ』(撮影ヴィルモス・スィグモンド)のコミュニケーションが出来ない世間から無視されているような2人の男の友情は『アリーキャット』の根底に流れている。

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  主演の窪塚洋介さんは三浦大輔監督『愛の渦』で撮影しており、ズバ抜けて情感を醸し出せる俳優で再会が楽しみだった。全く異なるキャラクターだけど存在のリアルさに圧倒される。降谷健志さんとは初めての仕事だけど、俳優業をほぼやっていないのに関わらずベテラン俳優と遜色ないのはポテンシャルの証左だろう。2人は映画の中だけではなく、フレームの外でも友情を深め合っていて、その光景を見るのが実に楽しかったのを覚えている。1月らしい斜光を積極的に捉え、中望遠域のレンズを中心に撮影して行った。大雪で一日撮影が中止になったけど、概ね順調な撮影だったと記憶している。タイトルバックの飛行機は合成ではありません。芝居とクレーン&カメラワークを飛行機に合わせています。

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  撮影はSONY PMW-F3をRGB4:4:4で外部出力し、KiPro QuadでProRes HQ収録。新しいカメラに比べセンサーの読み取り速度やサンプリングレートなどでスペックが見劣るけど、ルックを構成するのはその要素だけではない。F3のRGB444の能力は、周囲のカメラの進化で忘れ去られていた感があるけど、扱い易さという意味では再評価されるべきだと思っている。RAWでもないのに外部収録というのはすでに不可逆だとは思う。いずれにしても自分にとっては長年連れ添ったF3の集大成的な作品になっている。

  グレーディングはSONY PCLの平川裕美子氏。PCL社独自のLUT「ポルフェ」をテスト時に使用してみたら自分好みのルックに。現場でLUTを当てて撮影しようと試みたが、社外に出すのはNGということで旧知でGLADSAD社の山口武志氏に頼んで類似のLUTを作成してもらい現場で当てさせてもらった。コントラストが高く、中間部が少し黄色みがかり、暗部が少しグリーンがかっている。ロードムービーというほど実際に移動して撮影することは出来なかったが、東京という“辺境の地”のザラついた感じを出せたのではないかと思っている。

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