陰翳礼賛~chiaroscuro~

Cinematographer 早坂伸 (Shin Hayasaka、JSC) 

◼️『約束のステージ 〜時をかけるふたりの歌〜』撮影について

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  佐々部清監督とはこれで通算5回目のコンビになる。撮影スタイルが予め分かっているということは不安要素が少ない。佐々部監督は予めカット割りを出しておく。このカット割りの精度が凄い。カメラ尻(通称ひき尻=カメラを置くスペース)やライト、美術チェンジまで考慮されている。さらにそのカット割りに引きずられ過ぎない。芝居を見て「違う」と思った瞬間、スパッと捨て去る。監督のキャリアもさる事ながら助監督時代の経験則が多分に生かされている。テイク数も最低限だ。佐々部組に初めて出る役者が「もう終わり?」と言いたげな表情をすることを度々目にする。深夜まで撮影が及ぶことはない。キャストもスタッフも余力を残して翌日に臨める素晴らしさは強調してし過ぎることはない。

  ただしその分、技術スタッフはもたもたしていられない。監督が本番行きたいと思った瞬間に行けるように努力する。何かしらの理由で待ちになった場合は、その理由を明確に伝えておく。当たり前と言えばその通りだが、現場の推進力を損なわないために声を出していくことは大切だと思う。

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  カメラは弊社のSONY FS7mkIIを2台とジンバル用にもう一台、計3台を用意した。いつものようにノーフィルター。レンズはContaxレンズを中心に、SIGMAのシネレンズ、Nikonのスチールレンズなどを使用した。ジンバルはDJI社のRONIN2。カラースペースはS-LOG3.Cine。グレーディングは東映デジタルセンターでFUJIのLUTをベースに調整した。舞台は現代の青森とタイムスリップした先の昭和50年の東京。現代の方は寒風吹き荒む感じを出したくてブルートーンで彩度を落としている。昭和50年のルックは監督から総天然色映画のようなものを求められた。クレイジーキャッツの映画などを参考にテスト時にLUTを作成した。が、DITなどは付かないため、現場ではRec.709のLUTを当てて判断した。グレーディングは1日でやる予定だったのであまり複雑な工程を踏みたくはなく、ワイプなども最小限にとどめた。フェイストーンを最優先に作業を行ったため、監督のイメージした原色バリバリのトーンよりはだいぶ落ち着いているかもしれない。

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  時代物なだけに美術部の労力が画にそのまま反映される。最大の問題は昭和50年の上野駅をどこで再現するかだった。撮影可能な石造りの建造物を探して制作部が駆け回り、群馬県庁の昭和庁舎内で撮影を行った。実際の上野駅のスケール感を出すことは出来ないが、ロケハン時にアングルを限定することで美術部にフレーム内を徹底的に飾ってもらった。当時は電光掲示板などなく札がぶら下がっていた風景を懐かしくカメラに収めた。

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  バーのセットは東映撮影所内に建てた。実際の物件よりやや広く作られていてその空間描写をどのように行うかが思案しどころだった。実際より広い空間でワイドレンズを使用するとさらに空間が広がってしまう。かと言って長玉を使用するとカメラの引きじりを画に感じてしまいセット感が出てしまう。なのでワイド端のレンズは28mmとし、それ以上のワイドレンズの使用を禁じ(但し2カットほど例外が出た)、セットの壁を下げてもらって実際に壁が存在しうる場所ギリギリでカメラを構えた。時には壁に穴を開けてもらってそこからレンズを突き出して撮影することもあった。

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  撮影自体は非常にスムーズに進捗した。トラブルらしいトラブルもなかったが、自分自身がインフルエンザに罹患し、現場を2日ほど休まなくてはならなかったことが心残りだ。常日頃体調管理をしっかり行うことが撮影の第一歩だと肝に銘じた。土屋太鳳さんはじめ百田夏菜子さん、向井理さん、矢田亜希子さん、升毅さん、石野真子さん、皆それぞれのキャラクターを咀嚼し見事に演じていたと思う。タイムスリップが絡むファンタジー要素のあるドラマだが、昭和歌謡を懐かしむもよし、アイドルドラマとして観るもよし。幅広い年代の方に観てもらえる作品に仕上がっていると思います。

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◼️『生きる街』撮影について

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映画『生きる街』(榊英雄監督)は様々な厚意によってつくられた。スポンサー、スタッフ、キャストそれぞれが東日本大震災への想いを胸に参加している。ストーリーは津波によって流されてしまった夫の還りを待つ主婦と、現実を受け入れつつ離ればなれに暮らしている息子、娘が再び集うというシンプルなものだ。最初に企画を聞いた時、夏木マリ扮する主婦が自転車で海辺を走っているというイメージだけでこの映画は成立すると確信した。娘役は佐津川愛美、息子役を堀井新太、かつて石巻に住んでいた韓国人役にイ・ジョンヒョン。他に原日出子吉沢悠岡野真也斎藤工升毅

  撮影地は石巻牡鹿半島捕鯨の街であった鮎川港。津波被害も甚大だった場所。街の復興は(着々と?)進んではいるがかつての賑わいを取り戻すことは難しいかもしれない。港から少し上がったところに東京の企業が保有している今は使われていない保養所があり、そこを千恵子(夏木マリ)が営む民泊という設定にした。

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写真のように撮影前は鬱蒼としていて、ここに道を作り、橋を架けてもらった。美術の大町さんにはこの場にて感謝を伝えたい。この場所からは左に金華山、正面に網地島、右手に石巻港を眺望できる。風光明媚と言えよう。千恵子は日々この景色を眺めながら還ることはない夫を待っている。“窓”と言うのがキーアイテムになる。自分の中では「窓に始まり窓に終わる映画にしよう」というプランが生じた。ベルイマンの映画やハンマースホイの絵画など、北欧作品に見られるように窓枠を端正に活かしたい。その為にも今回はシネスコアスペクトレシオを珍しく強く推した。

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 カメラはRED EPIC-W。『blank13』(齊藤工監督)から立て続けにREDを使うことにした。これはようやくRED CODEに慣れて来たと言うことと、シネスコにするならばハイレゾリューションのREDが良いと思われたことによる。ただARRIに比べ、センサーごとのトーンの差が大きく感じられる。常にチェンジしていっていると捉えることも出来るが、旧機種とのトーン差を感じさせないことを意識しているARRIとは根底から考え方が異なるのだろう。今のところこの作品が自分がREDを使った最後となっている。

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 宮城県出身で、岩手の三陸海岸の祖母の家で毎夏休みを過ごした自分にとって、この作品は非常に重い。3.11以降宮城の実家には幾度も帰ったが、実は海岸沿いには一度も足を踏み入れていなかった。踏み入ることが出来なかった。見たくなかったし受け入れたくなかったのかもしれない。少なくとも自分には5年以上の歳月が必要だった(撮影は2016年秋)。この作品の堀井新太演じる息子が、仙台という比較的近い場所に住みながら石巻の実家には帰らない心理と近いものがある。“逃げ”の心情とも言えるが、被災という「現実」と自分の身の回りの社会生活という「現実」がうまく擦り合わずギャップとして横たわっていた。

  作品のロケハンで石巻及び津波被災地に足を踏み入れ、やはり衝撃を受けざるを得なかった。かつてあった生活の場が一瞬にして消え去る怖ろしさ。人間の力では遠く及ばない事象。途方も無い無力感の中でどう作品と向き合って行くか。

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  撮影工程の中で、「被災地の映像をドキュメンタリータッチで挿入していったらどうか」という意見がスタッフ間で湧き上がったことがことがあった。珍しく自分は強硬に反対意見を述べた。「作品は悲惨さ、無力感だけを伝えるものではないし、あくまでフィクションであるということ。現実には作中の登場人物以上に凄惨な経験や傷ついた人もたくさんいるわけだし、映画はそのような方達が観ても少しだけでも未来に拓けている必要がある」。演者もスタッフも被災当事者ではないし、その土地にゆかりがあるわけでもない。余所者の映画の創り手としては作品を通してその土地の良さを表現していかなくてはならない。

  撮影はいつも以上にフィックスを多用。先ほど述べた窓枠ライン、海岸の水平線、歪曲した道の曲線、流された家の基礎の幾何学模様、それらを印象付けていく。その中で人間の矮小さ、かつ逞しさを表現出来たらと考えた。クライマックス撮影日の朝、強い地震が起こり、津波警報が発令された。「直ちに高台に避難してください!」というスピーカー音の合間を縫っての撮影。窓から湾内を見ると、明らかにいつもの波とは感じが異なる。「これが津波なんだ」。津波が来てる中での撮影という不思議な経験をした。我々は生かされているんだということを再認識した。

  榊英雄監督とはもう何本もコンビを組ませてもらっていて阿吽の呼吸。この前に手掛けた『blank13』には役者として参加しており、今作にはその監督だった斎藤工氏が役者として出演するという、これまた不思議な体験をした。

 もう一つ貴重な経験としては野性の鹿の夜間撮影に成功したこと。牡鹿半島には鹿が多く生息しているが、ライティングしている場所に来てもらうことは難しいと思われた。しかし台本には「千恵子(夏木マリ)が鹿と目が合う」とある。自分としても成功の見込みはあまりないとは思ったが、挑戦しないのも嫌だったし、助監督からも「無駄なことに力を費やすより他のことに費やしたほうがいいのでは」と言われ癪だったというのもある。ただ自分の意地に周囲を巻き込むのも可愛そうだと思ったので撮休前日に、「自分一人で行ってライティングして朝まで待つ」と言ったところ、セカンドの岡崎はついて来てくれ、照明の大庭氏も「ライティングの設置まではやります」と来てくれた。大庭氏は設置後帰り、ひたすら暗闇の中鹿を待つことに。せっかくついて来てくれた岡崎も疲れのためかすでに寝落ちしている。

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   暗闇の中自分も夢うつつを行き来していると視界に何か動くものが。よく見ると鹿が何匹も草を食べに来ている。岡崎をそっと起こし、撮影体制を取る。REDとバックアップで持って来ていたSONY α7sⅡの2台。ただなかなかライトが当たっているところには警戒して近寄らない。ここまで来ると自分自信の闘いである。動物撮影カメラマンの気持ちが少し分かる気がした。 1時間くらい格闘していただろうか。無用心な牡鹿がフラリとライトの下に歩き出した。咄嗟にレンズで追う。暫く草を食べた後、こちらの方を気にしながら闇の中に消えて行った。ト書きに書いてあるような動きそのものであった。

 

 主演の夏木マリさんには「綺麗に撮る必要なんてないからね、皺をたくさん撮って。オバちゃんなんだからさ」と言われた。夏木さんなりの役づくりの一環なのだと思う。綺麗で便利なホテルではなく、あえて共同風呂、トイレの民宿を宿に選び、当事者たちの話を実際に見聞きし、肌の手入れは基本しない。このリアルな感じはとっても作品に反映されている。撮影初日に撮影した自転車に乗っている千恵子を撮影した時に、この作品は成功したと感じた。

 

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↓『生きる街』予告編

https://m.youtube.com/watch?v=agDtnU-xzEw

◼️BRAHMAN『ナミノウタゲ』MV撮影について

f:id:shin1973:20180122105216p:imagehttps://www.youtube.com/watch?v=28WLJxDIb-I

 

   BRAHMANは「幡ヶ谷再生大学」の一員としてボランティア活動を一貫して行なっている。一過性ではないその徹底した姿には尊敬の念を禁じえない。石巻牡鹿半島の西側に位置する小渕浜も3.11による津波被害で壊滅的なダメージを受けた。BRAHMANはここ小渕浜でのボランティア活動をメインに行い、地元との親密な関係を築いている。震災後の荒涼とした廃墟の中で遊ぶ子供たちの姿を見て、安全に遊べる公園を造った。MV撮影当日もその公園の花壇に球根を植える作業を行っていた。この曲は映画『生きる街』(榊英雄監督、3/3公開)の主題歌となっている。映画のメイン舞台も牡鹿半島の鮎川港。復興ボランティアにも積極的な主演の夏木マリさんはTOSHI-LOWさんに直接電話をかけ主題歌を依頼したと聞いている。映画の撮影のことは別の項に譲るが、このMVも様々な善意のもとで作られた。曲は、BRAHMANたちと交流の深い小渕浜の漁師木村さんの想いが描かれている。津波により妻と長男を喪った木村さんはとある早朝、TOSHI-LOWさんに電話を掛けた。普段は健気な木村さんだが、夢に妻と息子が出て来て海から呼ばれたという。震災後初めて涙したと聞いた。『ナミノウタゲ』の歌詞にはその辺りのニュアンスが含まれている。

  MVの監督は『生きる街』同様、榊英雄さん。榊監督のイメージはワンカットでエキストラがワーっと入ってくるというものだった。監督はクレーンでの撮影を想定していたようだったが、カメラは最低でも180°は回らなくてはならず、クレーンワークでは補えない。それでドローン撮影を提案した。というのも、自分は元々ドローン撮影に半信半疑だったのだが、少し前に手掛けたNGT48『世界はどこまで青空なのか?』(https://m.youtube.com/watch?v=qGBvujY6bjg)MVのドローンオペレーター遠藤祐紀氏(ヘキサメディア)の腕前に感銘し、初めて全幅の信頼を置くことが出来たからだった。監督はドラマ撮影の為ロケハンには帯同できず、かなり責任を感じた。

  まずワンカット撮影と言えども、「展開」が無くてはならないと思った。TOSHI-LOWさんのフレームインで始まりしばらく引っ張り、他の3人と合流、間奏の間にエキストラ合流、大団円で最後は海に向かうーという大まかな構成をした。カメラのオペレート位置、エキストラの待機位置、ドローンの影など、いくつも懸案があってどれもキチンと想定してないと大火傷する可能性もある。具体的プラン練ってそれを監督や遠藤氏と共有し、BRAHMANサイドに説明する為に「SHOT PRO」というアプリを使いシュミレートした。このソフトはカメラの焦点距離、高さ、仰角なども自由に設定でき、オブジェクト(対象物)も豊富に揃っていて自由にレイアウト出来る。タイムラインを拡大出来ないなど、操作上の改善点はあるがかなり優秀なソフトだ。

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ドローン、人物の軌道は以下のようになった(前半のみ)。

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ドローンはDJI社のINSPIRE2。

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2マンオペレーションだが、カメラのパン出来る幅は限られている為、曲線を描く飛行は動線を旋回させながらドローン自体も旋回させる必要がある。これはとてつもなく難しい。遠藤氏も自分からプランを見せられ、「どうしたものかと思った」と後に語った。しかしそのような不安は顔に出さず、飄々と挑戦してくれた。本番前日に何度もリハーサルした甲斐あって、何とtake2でOK! 予定終了時刻を2時間も巻いて終えることが出来た。エキストラに来てくださったBRAHMANのファンの方々も想定以上に早く終えた為、バス待ちが数時間あったが、自車で来た方々が全員を分乗させてくれて石巻市街まで運んでくれた。ファンの結束力には驚かされた。

  写真は参加者全員での記念撮影。とても穏やかでいい日でした。

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 最前列左隅筆者、真ん中榊監督、最後列左隅木村さん、最後列右から3人目遠藤氏(ドローンをオペレートしているため下を向いている)

◾️謹賀新年

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願い致します。

「キアロスクーロ撮影事務所」も法人化に相成り、株式会社として本格始動致します。

もともとは「自主映画や低予算作品でもキチンとした機材、人材で撮影を行っていく」ということを念頭に設立した事務所。ほぼ非営利組織と言えるものでした。ただ時間と共に人も増え、機材も増え、気づけば自分が使わない機材のために私財を投じ、膨大な経費がかかるようになっていました。カメラも陳腐化のスピードが高速化し、2年に一度は見直していかないと時代の趨勢に置いていかれるようになりました。機材の低価格化は喜ばしいことなのですが、映画やドラマが主のウチのような事務所では機材レンタルは高くつき、結局無理してでも購入することが多くなりました。非営利組織では、立ち向かえない状況になったのです。

  幸い、この期間に数多くの作品を手がけさせていただき実績だけは積み重ねることが出来ました。逆に言えばそれしかないのも事実です。豊富な資金もありません。ただ実績はお金では買えません。時間も必要です。その唯一無二の武器を信じて闘っていくほかありません。

  商売の基本である「何をどのような形でコンシューマーに届けることが出来るか」を常に肝に銘じます。短期的にはその対象はプロダクションになるのですが、長期的には観てくださる方々です。その双方に訴求できるような撮影を行なっていく所存です。

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今年の初めに一昨年の秋に撮影した2作品が公開されます。『blank13』と『生きる街』です。斎藤工さん、榊英雄さん、いずれの監督も役者であり、双方の作品にお互い出演しているという、やや不思議な経験をさせて頂きました。全く異なる内容の2作品ですが、自分らしいルックは作れたと思っております。撮影の詳細はまた違う機会に書こうと思っております。

  フィルム撮影と異なり可視化できる現在、カメラマンが居なくても映画を撮影することが出来ます。実際、ソダーバーグやロドリゲスのように監督自ら撮影する人も少なくありません。それでも我々が存在する意義を常に念頭に置き、自らを洗練させていくほかないのです。我々の商品は「美意識」に他ならないのです。

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  “映画の街”調布の古刹「深大寺」と古社「布多天神社」の札を元朝参りで頂いて来ました。何か今年はいい年になりそうな気がしております。

 

  今年一年もどうか宜しくお願い致します。

 

平成30年元日

◾️NGT48『世界はどこまで青空なのか?』MVの撮影について

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https://youtu.be/qGBvujY6bjg

  MVは年に1、2本程度手掛けるかどうかで、正直畑違いだと認識している。撮影助手の頃は数多くのMV現場をこなしてきたがカメラマンになってからは“映画的なもの”を求めてくる場合以外にはほとんど声が掛からない。知人も少ない。山戸結希監督とは面識がなかったのだが1年くらい前から何度か仕事のオファーを頂いていた。タイミングが合わず立て続けに断らざるを得なかったが、今回はたまたま入る予定だった作品がズレ、スケジュールが空いた箇所で喜んで受けさせてもらった。が、ほぼ経験のないアイドルもののMVということでやや戸惑った。まずメンバーの顔と名前を覚えることから始まり、山戸監督の作品を見て、関連するMVを鑑賞、検討した。監督と初めて会うのも新潟に行くロケハン当日の新幹線。初対面の制作スタッフ、初対面の監督と慣れないカメラマン、完全アウェーの気分で新潟に向かう。48系のMVの作り方は自分の知っているものともまた異なり、新鮮この上ない。山戸監督には、なぜ自分を指名してくれたのかを尋ねる。聞けば2014年公開のオムニバス『放課後ロスト』内の『倍音』(大久明子監督)という作品が好きで劇場で見たときに震えた、という。

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放課後ロスト予告編  https://m.youtube.com/watch?v=futjK1NpuUs 

  この作品は、上下を意図的に空けることで“空間”を意識させている。さらにアスペクトレシオを今ではマイナーなヨーロピアンビスタ(1:1.66)を採用することで効果を狙った。そんなにヒットも話題にもなっていない作品を非常に評価してくれていることは作り手として非常に嬉しかった。フィルターで効果を狙う撮影はここ数年間、ほぼ行なっていない。アイドルMVを見ると大抵フィルターが入っている。参考にはしたが、自分の美意識を騙すことは出来ないし自分らしくもないので『放課後ロスト』同様、SOFT F/Xを薄く入れることのみとした。

  カメラは汎用性の高いARRI AMIRA。自分の手がける予算規模の作品では使える機会は少ないけど、感覚的に馴染みがいい。一時のRED系の勢いに対し、ARRI勢がユーザーの支持を得て盛り返してるのは当然と言える。ハイレゾのみが“高画質”の要素ではない。

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  Bカメには、映画系よりもコマーシャル系のカメラマンがいいと考え、同級生の橋本太郎に参加してもらった。会うこと自体が15年ぶりだったけど、互いにブランクを感じさせず楽しい撮影となった。映画学校の卒業制作『青〜chong〜』は、監督が李相日(『悪人』『怒り』)、主演が眞島秀和、カメラマンが自分、チーフ助手が山田康介(『シン・ゴジラ』『ホットロード』)、セカンド助手が橋本、照明が飯村浩史(『岸辺の旅』)というチームだった。皆第一線で活躍していて、今となってはスゴいメンバーになっている。

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  現場では、台本とショットリストに則って撮影していく。 しかし“思いつき”も採用し、瞬発力を発揮した現場だったと思う。山戸監督の“語彙力”には目をみはるものがあり、若い人たちに支持を受ける理由が分かる。一度、しっかり長編で組んでみたい。

  反省点としては、編集の感じをキチンと把握しきっていなかったこと。MVはいわば“いいとこ使い”で良い。映画系の人間はカットの初めから終わりまで使えるようにきっちり撮影してしまう。ここまでテンポの早いカッティングならもっとカメラをぶん回しても良かった。でもメインカメラでそれをやるとヤケドすることもある。葛藤を抱えた分、Bカメの重要度は高かった。

  新潟万代シティ、山古志村と、濃厚な2日間の撮影だった。雨の可能性もあったがどうにか回避。ドローンも無事に飛ばせた。パイロットは今回初めて組ませてもらったヘキサメディアの遠藤氏。非常に卓越したテクニックで瞬時にこちらの意図を汲んでもらえた。間違いなく今まで組んだドローンパイロットの中でナンバーワンの腕前。長年行ってみたかった山古志に来れたことも感慨深い。

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  ミュージックビデオ、特にアイドル系のものは難しさを感じる。特定のファンに向けるのか、一般に訴求させるのか。恐らく両軸を見据えることが最良なのだろうけど、なかなかそのビジョンを持ち得ない。戸惑いながらも最終的には自分の美意識のものに落とし込めた。たまにはこういう撮影も刺激的に感じる。

 

 

◾️『報復〜かえし〜』の撮影について

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  この作品の仮題は『罪の追憶』というものが付かれていた。どことなく韓国映画を彷彿とさせるタイトルである。劇場用作品ではあるがDVDパッケージ2本にするというのは前段階から決まっていたので、所謂“Vシネマ”の枠組みだ。1週間程度で3時間近い作品を撮影する、かつてよく手掛けた低予算体制、腕がなる思いだ。内容はしかもフィルムノワール風。同級生を殺めてしまい出所してきた青年と娘を殺された父親の対峙。田舎を舞台にし、そこの悪徳警官、ヤクザなどが絡んでくる。自分のイメージは完全に“雑貨店のドストエフスキー”ことジム・トンプソンの世界だった。自分指名というわけではなくウチの事務所へのオファーだったが、これは自分がやらなければならないジャンルの作品だと思い、自ら手を挙げた。

  膨大な分量の割に撮影照明予算はあまりない。しかもスチールも撮影しなくてはならない。そこで変則的な体制を考えた。カメラは低照度に強いSONY α7sIIをメインカメラに据え、サブカメラにRX10IIIというレンズ一体型デジタルスチルカメラ。要は2カメで撮影し、状況に応じてスチールに切り替えていこうという作戦である。メインカメラは自分が、サブカメラをウチの吉田淳志が担当し、助手はフォーカスの岡崎孝行1人。サブカメラのフォーカスは吉田が自分で行う。照明は大庭郭基氏1人のみ。これは基本的にアヴェイラブルでいきますよ、という意思表明である。照明部を組んでしまうとある程度キチンとしたライティングを組まなくてはならなくなり、スケジュール消化が厳しくなるのが予想された。LEDのライトパネルを複数台とHMI575を2台、これでほとんど全てである。混載し、ヨーイドンで撮影照明機材を下ろすというスタイル。撮影部、照明部の隔てをなくす自主映画的スタイルとも言える。この体制にした理由が実はもう一つある。撮影時期は極寒の1月。インフルエンザなどにカメラマンである自分が罹り外出不可になった場合、撮影が中断してしまう。カメラマンのバックアップということも考慮しなくてはならなかった。実際、ある日吐き気が収まらず、半日ほど現場を吉田に任せる場面があった。撮影のリスクヘッジという考え方も大切かもしれない。

  異なるカメラ2台というのは反省点もあった。クランクイン前にグレーディングテストなどを行い、2種類のカメラの親和性を確認はしていたのだが、極度に悪い条件では行っていなかった。暗部の階調や粒状性に大きな差が出てしまった。やはり同じカメラを2台用意すべきだったと大いに反省した。

  RONINも使っていたのだが、挙動がおかしくなり、重要なシーンで使用が出来なくなった。あとで購入先で調べたところ、初期化すれば治ることを知る。トラベルシューティングが出来ていなかったことが悔やまれる。助監督経験が豊富な山口監督は「モニターは必要ないです」というスタイルを採ってくれたからこそのこの体制であったが、モニターなしの弊害が一箇所出てしまった。センサーに付着したチリの写り込みに気づかなかったのである。これは編集時に初めて気づき暗澹としてしまった。グレーディング等で誤魔化しはしたが撮影部としてはかなり痛いミスケースとなった。確認に次ぐ確認を怠ってはいけない。

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  主演は佐野岳津田寛治(敬称略)。それに木下美咲、近藤芳正内田理央、戸塚純貴、小宮有紗榊英雄、森本のぶ、ラサール石井ガダルカナル・タカ。実に多彩でモザイク模様のキャスティング。矮小で利己的なキャラクターのアンサンブルだが、いずれも粒が立っているのは脚本がいいためか、演出が優れているのか、演者の技術の賜物か。主演の2人のキャラクターの陰鬱さの割に全体のトーンは決して暗くはない。極寒の中、薄着で通してくれた主演の2人には本当に感謝したい。撮影後、佐野岳さんに寒さを顔に出さないことを褒めたら、「めちゃくちゃ寒かったっすよ!」とのこと。メソッド的に役づくりをしていた。彼は運動神経の良さで知られるが、今回はそのようなシーンは全くない。新たな面を見てもらえたらと思う。津田さんも役に入りきってテストからいつも全力投球。相当肉体的精神的に負担を掛けたと思う。彼らの本気の芝居を堪能してもらえたらと思う。

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カメラ:SONY α7sII、RX10III

撮影:早坂伸、吉田淳志   撮影助手:岡崎孝行   照明:大庭郭基   グレーディング:山口武志(GLADSAD)